薬学部シラバス2024

数学Ⅰ(微分積分学Ⅰ)
Mathematics Ⅰ(Calculus Ⅰ)

 1年 前期 1年必修科目 1単位
片野 修一郎

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授業の目的(ねらい)

現代社会において、数学の必要性は間違いなく単調に増加しているにもかかわらず、全ての科学の基礎となって学力のベースを構成する数学のような学問は、目に見える卑近な成果ばかりを追いかける現代日本の風潮の中にあっては軽視されがちである。マンションの杭打ち基礎工事に問題があれば、後になって深刻な影響が出ることはニュースなどでも報道されたので、知っている人もいるかもしれない。当該マンションは結局建て直しになり、大きな社会問題に発展した。薬学を学ぶ上でも、数学は大切な礎石部分を構成するのである。基礎工事ができていないまま大学の勉強を続けようとすると、どのような恐ろしい事態を招くか、それは各自で考えて欲しい。
下の「到達目標」に書いてあるような内容を解説するのだが、担当者である私が最も懸念しているのが、日本の若者が意味を全く解そうとせず、ただただ解き方・計算の仕方などの“How to”のみに埋没して、それで答の通りに計算できればそれで「理解した」と思ってしまうことである。「数式も文章である」ことをこの授業を通して肝に銘じてほしい。数式の意味が日本語で言えなければ全く理解できていないのである。勉学に対するこのような基本的な姿勢は、本来、中学生くらいから少しずつ身についていってよいはずであるが、それが大学生になっても形成できていないのが現代日本の諸悪の根源だと考えている。その諸悪の根源に立ち向かうのが本講義の大きなねらいのひとつでもある。

学修到達目標

この授業では、薬学にとって最も役立つ道具である「微分積分学」にスポットを当てて、薬学に自在に利用できるようになるまでしっかり理解することを目標として掲げたい。同時に、(数学のような)学問に向き合うときの姿勢をぜひ学んで欲しいとも思う。連立方程式を解いて解を求めることはできても、「連立方程式の解」の意味がわからないのではちっとも数学を勉強したことにならないのである。
(1)How toを暗記するのではなく、Storyや意味(つまり概念)を理解する。 
(2)些細な計算ひとつとっても、工夫したり別の方法を考えたりする習慣を身につける。
(3)微積分の(少数の)基本原理を明確に理解する。
(4)薬学に必要な微積分の計算能力を身につける。

授業概要

微積分学の基礎を、オーソドックスなスタイルに基づきつつも、関数や実数の基本事項から始めて可能な限り丁寧に説明する。具体的なメイン・トピックスは、微分法の意味と目的、微分の定義、各種初等関数の導関数の導出、合成関数の意味、合成関数の微分法、簡単な微分方程式、リーマン積分の意味と定義、微分と積分の関係(微積分学の基本定理)、薬学で必要な程度の限られた初等関数の積分計算、2変数関数とは何か、偏微分の意味と定義、偏導関数の具体的計算、高次偏導関数、全微分とは何か、といったところである。数学の学習で忘れられがちなこととして、数学記号の意味や読み方、書き順がある。日本の若者は、とりわけこれら記号に弱く鈍感であるので、機会を見つけてきちんと説明する予定である。

授業計画

回数 担当 内容 コアカリとの
関連コード
1 片野 関数の基本(表記の仕方や変数・定数の意味などを含む)についてきちんと身につける。微積分の舞台である実数の性質についても、極限の理解のために直観的な説明をする。 T-1-1-1
2 指数関数の基本性質を心底から理解する。指数関数の際立った特徴を把握したうえで、グラフが描けるようになる。2xと2xの違いが曖昧、なんていうことが絶対にないように。指数の性質の理解を確認しながら計算にも習熟する。
指数関数の逆関数としての対数の定義と意味を明確に理解する。対数関数の基本性質を把握したうえで、そのグラフが描けるようになる。そうなれば対数計算など簡単である。
T-1-1-1
3 極限の意味を直観的に理解し、微分法が何のために考えられたのか、何をするためにあるのかを自分の言葉で説明できる。定義に基づいて簡単な関数の微分が実行できる。微分法の基本性質を理解し、それに基づいて多項式や有理式の微分が自在にできる。 T-1-1-1
4 指数関数の微分ができる。その過程で、自然対数の底eの意味と意義とをはっきり知る。なぜ微分するときは常用対数ではなく自然対数を使うのか。この機会に、自然対数と常用対数それぞれの用途についても認識を新たにする。 T-1-1-1
5 まず合成関数とは何かを理解する。ライプニッツ記号の意味についても確実に理解する。次に合成関数の微分法の仕組みを理解し、自在に計算できるようになる(ここは微分法学習最大の山場のひとつである)。 T-1-1-1
6 逆関数の微分法則の応用として、対数関数の微分ができるようになる。薬学で現れる簡単な微分方程式にも触れ(組織的な説明は選択科目数学Ⅱでやる)、その数学的基礎を説明する。 T-1-1-1
7 積分の基本理念について理解する。原始関数の概念を、その表記法と共に理解する。基本になる少数の簡単な原始関数が確実に求められる。 T-1-1-1
8 合成関数微分の逆読みとしての積分(最も初歩的な置換積分)ができるようになる。薬学で必要な積分はほぼこのレベルで済む。 T-1-1-1
9 2変数関数とは何か、そのグラフはどんなものかを理解する。偏微分の概念を表記法と共に明確に把握し、具体的な関数の偏導関数が計算できる。熱力学で現れる偏微分などについても知る。2階の偏導関数までを確実に計算できる。記号等もきちんと使える。2変数関数本来の微分である全微分について理解する。 T-1-1-1

授業で行っている工夫(アクティブラーニング、思考力・判断力・表現力の向上に向けた取り組み)

・「これは何なのか」「どうしてこんなことを考えるのか」「なぜそうなるのか」「この式の意味は何か」といった理屈の部分を(専門的にならない範囲で)徹底的に解説する。
・例や例題をできるだけ多く紹介し、解説している。
・演習問題を数多く解いて理解を深める機会をできるだけ設けている。

成績評価方法

<試験により評価する>
1)形成的評価
 a) 知識:演習問題の解答を授業中に発表させたり、質問に答える、WebClassに詳細な解説記事を掲載するなどして主体的な取り組みを促す。
2)総括的評価
 a) 知識:基本的には定期試験(100%)で評価するが、(可能なら)授業内の演習問題解答発表、(自主的な)レポートの提出などは勘案する。

教科書

片野修一郎 『根底から理解する 微分積分学入門【第2版】』(ムイスリ出版)。
高等学校数学Ⅱの学習に不安がある人は、数式の部分ではなく、本文の説明部分を入念に読んでください。近年の我が国の数学教育の諸悪の根源は、枠で囲まれている公式を覚えて、例題と同じ解き方で問題が解けるようになることが「理解」であるというとんでもない誤謬が当たり前のこととしてまかり通ってしまっていることです。まさに、そういう勉強を「勉強」だと疑わずに今までやってきた人は、胸に手を当てて「今までに勉強してきた数学で、なにか鮮明に残っているものがあるか、様々な場面で数学的な考え方ができるようになったか」と自問してみてください。たぶん何も残っていないし、何も血肉になっていないと思います。すべて、枠囲みの公式を意味もわからず覚える勉強しかしてこなかったことが原因です。
逆に、本格的な微積分の本が読みたい人は大書店に行けば山ほどあります。授業を理解するだけで手一杯の人は、高校数学の教科書を常に手元に置いておくと良いです。とりあえず一通りのことが、この薄さと安さで達成できる本はたぶん他にはありません。

参考書

小林賢・熊倉隆二編『わかりやすい薬学系の数学演習』(講談社)
この本は、中学校で学ぶような四則計算や濃度計算に始まり、微分方程式を用いる(本学では後期選択科目の数学Ⅱでしか学ばない)薬物動態や化学反応に関する国試問題の演習までを扱っています。国試を見据えた6年分の数学的問題の対策とまとめや、2・3年次で学ぶ専門科目と並行して日頃から取り組むという使い方も有効かと思います。授業では使いません
加藤文元『チャート式 大学教養 微分積分』(数研出版)
なんていうのもあります。東工大では全学で教科書として使われているようです。
数学に強い興味があり、もっと本格的な本を知りたい人には個人的に教えてあげます。

オフィスアワー

火曜午後に学習相談を設定してありますが、質問はそれとは無関係に、1105研究室でいつでも受け付けます。質問するのに遠慮も予約も要りません。

準備学習(予習・復習等)

高等学校の数学Ⅱまではしっかり理解しておくことを強く望みます。高等学校で「ただ履修した」ことと「きちんと理解した」ことは天と地ほどの違いがあることをきちんと認識して下さい。特に指数・対数は薬学部生にとって命です。6年間ついてまわります。理系大学に籍を置いているにも拘わらず、指数対数の基本中の基本さえ理解していない学生が非常に目につきます。「理解する」という言葉の意味が実感できなくなっているのではないかと危惧します。掛け算九九と同じくらいはっきり理解して初めて「理解した」というのです。
この授業では、高等学校数学Ⅲを履修していることを仮定しません。上に書いたように、理解していないのなら、履修していないのと同じことです。数学Ⅲを履修していないことを気に病む学生を毎年相当数見かけますが、そんな暇があったら、数学Ⅱ(それ以前の教科書も含む)の教科書を完全に理解しておくことに全力を注いで下さい。数学Ⅱまでが完全にわかっていれば、この授業に臨むに当たっては何の不足もありません。また、数学の基礎基本が本当に良く理解できていれば、薬学に現れる数学は簡単だとわかるはずです

学生へのフィードバック

授業時間の許す範囲内で可能な限り演習問題を試みてもらい、その解説を行うことでフィードバックとしたい。毎年やっているように。できるだけ学生諸君と対話をし、理解の様子を確かめながら進めていきたいと思っている。

備考

ナンバリングコード

RB11102

授業計画の見方・注意

①行動目標(内容)

…科目毎に設定された本学独自の行動目標が記載されている。

②行動目標(コアカリとの関連コード)

…本学の行動目標とモデル・コアカリキュラムとの関連をコード化して記載している。
 コードの具体的な内容は、画面右上の「コアカリとの関連コード一覧」をクリックすると確認することができる。

授業計画の見方・注意の見本シラバス

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